少し昔のお話ですが、内容的にとても考えさせられるドキュメンタリー映画なのでここにそのレビューをおいときます。 最近は子供と仮面ライダーとか***ジャーとかの映画しか見てないので、このコラムを見返しながら、もっといい、心に残る映画を観なければと思っています。
2008年2月7日に福山歯科医師会館のアイボリーホールでマイケル・ムーア監督の映画”SiCKO”の上映会が行われました。上映開始時間がPM7:30という遅い時間ではありましたが、申し込み118名があり、110名の方が映画を見られました。さて、マイケル・ムーア監督はアメリカの銃社会に対しウリング・フォー・コロンバインという映画を、9.11のテロに対しFahrenheit9/11 、邦題”華氏911″を作成し、カンヌ国際映画祭でどちらの作品も賞を受賞しています。
ちなみにこのマイケル・ムーアさん正義感が強いのか、高校を卒業し、その年に校長と副校長の解雇を求めて教育委員会選挙に出馬し当選。任期終了までに校長と副校長は辞職した、させた?というエピソードもあるようです。とにかく、その後も直撃取材型のドキュメンタリー映画をとりまくっています。
日本の医療保険制度はWHOなどによると世界一と評価されてきたようですが、現在では医療費抑制や研修医制度改革また度をこえた医療訴訟によりその制度は揺らぎつつあります。また、一部では医療崩壊は避けられないとの考えもあります。歯科においても同様で、保険適応の幅がどんどんせばまり、一連の治療の流れの中でかんがえると、信じられないような保険の適応削除があるように思います。実際の医療の現場において、このように医療の現場のきしむ音を聞きながら考えると、この行き着く先にはアメリカのような保険制度なのかな?と思っていました。
そのように思っていたときにアメリカの医療崩壊を取り上げたSiCKOを観て見ましたが、その感想をひとことで言い表すならば悲惨そのもの。もちろんドキュメンタリー映画といいつつも、こんな考えもあるよ的な感じではなく、マイケル・ムーア監督のこちらが絶対悪でこちらが絶対正義!!的な一方的な考えも入っているんでしょうが、それを割り引いても結構悲惨な事象が連発でした。その根底には、アメリカ特有の入り口も高いが、出口も高い医療保険があり、言い換えるなら徹底した保険会社の利益至上主義があると思われます。そういわれると最近日本でも損保会社の不適切な不払いが問題になったものですが、これの誘引は2001年にはじまる保険の自由化がきっかけといわれています。言い換えるなら日本の車や、生命保険の分野ではもうその制度が一度壊れてしまったのではないでしょうか?ただ対象が車ならそんなに悲惨なことにはならないでしょうし、生命保険はもともと医療保険の足りないところを補うような第3分野保険ですから、大きな支障はないように思われます。しかし、保険の対象が直接的に命や健康になると…..考えただけでも恐ろしい。その警鐘がSiCKOなのか。
日本の医療保険制度もなにかドラスティクな改革がなければ、この先アメリカ型の医療保険制度となり、車や生命保険の不払いと同様のことがおこるのは想像に難くないと思われます。本年は診療報酬の改定があり、0.42%のプラス改定らしいですが、よろこんではいられません。そこいらのスーパーのお菓子の値上がりのほうがもっと上ですから。国も患者さんも医療従事者も3者ともに納得できる制度はないものでしょうか?
映画の後半では、イギリス、フランス、カナダそしてキューバの医療制度が紹介されました。恥ずかしながらこれらの国の医療制度がここまで整備されているとはまったく知りませんでした。特に後で調べてみるとキューバは医師が人口165人に対して一人、乳児死亡率も1,000人当たり6.5人と優秀な値です(2002年)。(ちなみに日本は3.2、アメリカは7.2。2003年)もちろんこれらの国の医療制度も負の部分がないわけでもく、日本では過去に3時間待ちの3分診療といわれたようだが、イギリスでは現在でも24時間待ちの1分診療といわれているようだ。
医療制度がどうあるべきか、この映画で道筋が示されたわけではないが、少なくともアメリカ型の医療保険制度はお金持ちの人にはどんな高度な治療も受けられる最高のものかもしれないが、貧乏な人はまともに治療は受けられないものであり、あまりうれしくない格差医療制度であるよう感じましたが、どう思うかはひとそれぞれです。
けど、日本の歯科医療の現場でも、もう、おこっているかもしれません、格差医療。 お金が沢山ある上流はインプラントで、中流ぐらいは根管治療してかぶせをいれて、下流は歯を抜いてそのまま、てな感じで。 今はまだいい、なぜなら患者さんに選択の余地があるから、もし根管治療やかぶせを入れる治療がアメリカ並みの値段になったら、どうなるのでしょう?
日本の将来がどうなるかはまったくわかりません。しかし、格差社会という言葉が聞かれ始め、医療制度もその渦に引き込まれ、どうなるんだろうこの先。とため息だけがでた映画でした。
2008・2・14 伊東孝介